IGHV3-66
■ 概 要
現在川崎病の標準治療には血液の中に含まれる免疫グロブリンというタンパク質を集めて作った製剤が用いられますが、この免疫グロブリンがヒトの体内で作られる時の設計図となる遺伝子の型の違い(バリアント)が川崎病へのかかりやすさと関係することが、韓国、台湾との国際共同研究により明らかとなりました。川崎病の発症の原因の解明や、免疫グロブリン製剤が川崎病に対して治療効果を発揮するメカニズムの解明につながることが期待されます。
研究グループでは、これまでそれぞれの国で川崎病患児と川崎病でない対照集団をゲノムワイド関連解析という手法で比較を行い、川崎病へのかかりやすさに関係する遺伝子のバリアントを探す研究を行いって来ましたが、この度、それぞれのデータを一つに統合し、規模を大きくすることでこれまでの検討では見つからなかった新たな川崎病関連遺伝子を見出すことを試みました。解析の結果、6番染色体のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子領域と14番染色体の免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子領域に川崎病患児の対照集団より高い頻度でみられる(川崎病と関連する)バリアントが見つかりました。
HLA遺伝子領域には既に日本人集団で関連が確かめられているバリアントがありましたが、今回、その他に合計7箇所の異なるバリアントが川崎病と関連することが明らかとなりました。
免疫グロブリン分子には軽鎖、および重鎖の2種類があり、それぞれが2分子ずつ集まって病原体や毒素などから体を守る抗体として機能しています。それぞれの分子には可変領域とよばれる免疫グロブリンが病原体や毒素などと結合する時に重要な部分があります。今回の研究では、この免疫グロブリン重鎖の可変領域をつくる遺伝子の一つ、IGHV3-66遺伝子のバリアントが川崎病と関連することが分かりました。
このIGHV-66遺伝子のバリアントがどの様に川崎病へのかかりやすさに関係しているか、を今後明らかにすることで、川崎病の発症の原因や、免疫グロブリン製剤の有効性のメカニズムなどについての理解が進むと期待されています。
この研究では、日本人川崎病患者の方々のDNAが解析されていますが、川崎病遺伝コンソーシアムにご参加頂いた方々1284人が含まれています。
ORAI1
■ 概 要
川崎病への罹患しやすさに関連することが知られるORAI1遺伝子について、遺伝子のタンパクコード領域内のまれなバリアントと川崎病との関係に関する新たな知見が見いだされました。
研究グループでは川崎病へのかかりやすさと遺伝子のDNA配列の違い(バリアント)との関係を調べており、以前の研究でORAI1遺伝子の配列上にある2つのバリアントが、川崎病へのかかりやすさと関係することを見出し報告していました。それらの一つはありふれて集団内に見られるもの、もう一方はそれよりは頻度が低く、一部の人にのみにみられるものでした。今回の研究では、さらに頻度の低いORAI1遺伝子のバリアントにどのようなものがあり、どう川崎病と関わっているか調べました。
日本人の川崎病患者3,812人、非患者2,644人のORAI1遺伝子の塩基配列を調べ、タンパク質を構成するアミノ酸の配列をコードしている部分(タンパクコード領域)にあるバリアントをすべてリスト化しました。それら一つ一つについて、遺伝子の機能に与える影響の大きさをコンピュータープログラムによってスコア化しました。次に予測スコアがある基準より高く、かつ集団内での頻度が特に低いもの(500人に一人未満にしかみられない)のみをひとまとめにして、川崎病患者グループと非患者グループの間で、頻度の比較を行いました。その結果、基準を満たすバリアントをもつ人は川崎病患者グループには6人みられたのに対し、非患者グループには1人も見られませんでした。この6人の川崎病患者のうち3人は免疫グロブリンが効きにくく、複数回の治療が必要であったり、重い冠状動脈後遺症を負っており、ORAI1タンパクの機能を大きく変化させるような遺伝子のバリアントは川崎病になった際の重症化に関係している可能性が示唆されました。
この結果によりORAI1タンパクのバリアントには、川崎病へのかかりやすさとの関係に加え川崎病にかかった場合の重症化しやすさにも関係していることが示唆されました。
この研究において、川崎病遺伝コンソーシアムに登録された川崎病患者試料・情報1378人分が解析されました。